3日に研究不正と撤回が公表された佐藤能啓、佐藤敬弘前大学学長らのJAMA論文は脳梗塞後の患者の「葉酸と活性型ビタミンB12の服用が、大腿骨頸部の骨折を5分の1に減らすことを確認した[1]」もの。「ビタミンB群の補充で骨折が減ることを、前向き試験で確認したのは世界でも初めて[1]」だという。
佐藤能啓は2010年5月にも葉酸とビタミンB12の服用で早期のアルツハイマー病が改善し、同病の危険因子であるホモシスチンの血中濃度を下げる事を実証した事が報道された[2]。従来症状の進行を遅らせるアリセプトしか薬がなかったが、新しい良い選択肢ができたと主張された[2]。ただ、この成果がどの論文に掲載されたのか報道で言及されなかった[2]。
論文の成果が正しければ患者にとって良い発見だった。脳梗塞の患者は喜んで葉酸と活性型ビタミンB12を服用したかもしれない。しかし、これが意図的な捏造だったら非常に悪質な事だ。研究者や医師の利益のために期待した効果が出ない薬を患者を騙して服用させるのは非常に悪質。
[2]で報じられたアルツハイマー病に対する葉酸とビタミンB12の効用に関する研究には捏造や論文撤回を確認できないが、佐藤能啓らの別なアルツハイマー病の論文も研究不正で撤回された事を以前に紹介した。はっきりいって佐藤能啓らは悪質な捏造、改ざんを常態的に繰り返してきたので、研究成果が全く信用できない。
少なくとも2014年11月12日に米国神経学会が葉酸とビタミンB12の投与は血漿ホモシスチンを低下させても記憶思考障害に対する効果が出ないというオランダの臨床研究の結果を紹介した。[2]で報じられた件は本当に正しいのか。
早期のアルツハイマー病患者が期待した効果を得るために、アリセプトではなく葉酸とビタミンB12の服用を選択したが効果がなく、アリセプト服用に比べて症状が進行してしまったという事がないとよい。
海外でも英国のAndrew Wakefieldが「新三種混合ワクチン(MMR vaccine)・予防接種で自閉症になる」という捏造論文をランセットで発表した。そのためこれを使った予防接種を避けて麻疹にかかった子供が大量に現れた[3]。Wakefieldは英国の医師免許を取り消された[3]。当然だろう。こういう人物に医師の資格はない。
日本はこのような極めて悪質な事をやっても医師免許が取り消された例はない。例えばディオバン事件では医師が改ざんを行った事が確認されたが、責任者を含め誰も医師免許を取り消されなかった。製薬会社や医師、研究者の利益のためディオバンは他の薬より脳卒中や狭心症のリスクを下げる等の特別な効果があると患者を騙して服用させ巨額の保険料を騙し取った極めて悪質な事件だったが、日本は医師免許取り消しを行わない。事実上改ざんが認定されたVARTの責任者小室一成東大医学系教授は一切処分を受けていない。
今回の研究不正も佐藤能啓が見立病院や弘前大学に在籍していないので何の処分もなく終わるかもしれない。他の著者もオノラリーオーサーだったと言い分して逃げ延びる戦略かもしれない。
最近の吉村泰典のデータ改ざん(疑義)による政策実行なども甚大な損害をもたらす。
政策や医療に関する研究で研究者や医師の利益のために嘘の成果を捏造すると甚大な損害が出る事があり、極めて悪質。だから、私は佐藤能啓らの一連の研究不正は重大な事件だと思う。佐藤能啓は見立病院や弘前大学を離籍したから無処分、他の著者はオノラリーオーサーを言い分に逃げ切り、誰も責任をとらないで終わるというのは許し難い。
相当な処分を行う事も抑止のために重要だが、それ以上に原因を究明して再発防止に繋げる事が重要だ。現在は調査結果が公表されていない。本件は重大事件なので近いうちに報道されると思うが、見立病院や弘前大学はきちんと調査結果を公表し、原因の究明や再発防止に努めて頂きたい。
参考
[1]日経メディカル2005年4月号。
[2]読売新聞 2010年5月3日
[3]白楽ロックビル 研究倫理、2016.6.5閲覧