最近筑波大学生命環境科学研究科の柳澤純のグループが発表したMCB論文に訂正が公表された。
『original article: Tateishi et al:Mol Cell Biol. 2006 Nov;26(21):7966-76. Epub 2006 Aug 28.
Turning Off Estrogen Receptor β-Mediated Transcription Requires Estrogen-Dependent Receptor Proteolysis
Yukiyo Tateishi (筆頭著者),
Raku Sonoo (筆頭著者),
Yu-ichi Sekiya,
Nanae Sunahara,
Miwako Kawano,
Mitsutoshi Wayama,
Ryuichi Hirota,
Yoh-ichi Kawabe,
Akiko Murayama,
Shigeaki Kato,
Keiji Kimura and
Junn Yanagisawa (責任著者)
+ Author Affiliations
Graduate School of Life and Environmental Sciences, University of Tsukuba, Tsukuba Science City, Ibaraki, Japan; Ankhs Incorporated, Tsukuba Industrial Liaison and Cooperative Research Center, University of Tsukuba, Tsukuba Science City, Ibaraki, Japan; Institute of Molecular and Cellular Biosciences, University of Tokyo, Bunkyo-ku, Tokyo, Japan
AUTHOR'S CORRECTION
Volume 26, no. 21, p. 7966–7976, 2006. Some GAPDH (glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase) panels of Western blots were duplicated inFig. 1E, 5A, 6A, and 6B. In Fig. 2A, panels for estrogen receptor β(K4A) [ERβ(K4A)] and GAPDH were duplicates of those for ERβ and GAPDH. Since we could not identify the original GAPDH panels which were set with ER panels, we have repeated the experiments and now provide corrected panels. None of these corrections change any of the results or conclusions of the paper. We apologize for any confusion these errors might have caused.
Page 7968, Fig. 1E: The ERα and associated GAPDH panels should appear as shown below.
[3]』
論文の筆頭著者は立石幸代(国立環境研究所環境健康研究センター、[1])とRaku Sonoo。Raku Sonooに関してはネットで調べても所属等の情報が見つけられなかったので現所属は不明。立石は現在はどうだかわからないが、2011年11月頃は国立環境研究所に所属していたようだ[1]。2012年3月21日受付、6月8日受理の論文でも同所属になっている[1]。現在所属している可能性もある。少なくともネットで確認できる直近の立石の所属は環境研だし、[4][6][7]で不正が指摘されたときの立石の所属は環境研なので本稿では立石は環境研の所属ということで扱う。
立石は2005年3月に筑波大で博士(学術)を取得し、ポスドクになったようだ[1][2]。年齢は30代。実験の主たる実行者で最大の責任があるのは筆頭著者だから、この件で不正があれば立石らの責任は免れないだろう。
著者は他にも村山明子(筑波大講師)、柳澤純(筑波大教授)、加藤茂明(東大元教授)がいる。柳澤純が責任著者。彼らの名前を聞いてピンとくる人もいるだろう。村山は加藤茂明事件の共犯者と疑われている人物だ[4]。加藤茂明に関してはいうまでもない。
さて、この件は表向きは画像がいくつか重複してしまったので訂正したということになっている。それが故意か過失かは言及されていない。捏造等の不正があれば通常訂正ではなく撤回になる([5])から、訂正で済んだところをみると過失だったと思う人は多いかもしれない。確かにこれだけをみれば過失と思うだろう。
しかし、この論文に関しては捏造疑惑が指摘されている[6]。[6]-その1をみると、6,7件データ流用があったと指摘されている。捏造の真偽はどうだろうか?その判断のために重要なことが、訂正公告中に述べられている。
「Since we could not identify the original GAPDH panels which were set with ER panels, we have repeated the experiments and now provide corrected panels.」(参考訳- ERパネルで使用したオリジナルのGAPDHパネルを確認できなかったので、実験をやり直して修正したパネルを提供した。)
要するに生データが不存在ということ。これは重大な欠点。捏造が事実でなくても、懲戒処分を受けても仕方ない。文科省のガイドライン等では生データの不存在で不正の疑いを覆せない場合は不正と認定されるというルールなので、捏造を認定されても仕方ない。生データがないのはおそらく捏造したのでデータがないということだろう。
この件については、どういう経緯で訂正が公告されたのか不明。加藤茂明事件に関する東大の調査で訂正が出たのかもしれない。又は上でもいったように加藤茂明事件の共犯者と目される人物が共著者になっているので、加藤事件の調査が筑波大でも行われていて、その過程で訂正が出たという推測があり得る。ただ、この論文は告発者のページを見る限り加藤事件の告発論文に含まれていないので、東大や筑波大の調査で訂正が行われなかった可能性も否定できない。
[7]のサイトの運営者は2012年2月に柳澤純らの不正を筑波大に通報して予備調査が開始されたと言及しているので、この件で筑波大で調査が進んだという可能性も考えられる。
もともと文科省のガイドラインでは著者の所属機関と旧所属機関の合同で調査されるということになっているから、立石の現所属機関である環境研で調査が行われ、訂正が出たということかもしれない。
加藤茂明事件と関係があるのか、どういう経緯で訂正が出たのかなど詳しいことは不明だが、不正の調査の過程で訂正が出たのだろう。
訂正が出たところをみると、ひょっとして著者やその所属機関はこれで済んだつもりなのかもしれない。仮にそうならば、不適切だ。訂正で済ませたところをみると著者は不正を否定するつもりだろうが、この件は6,7件もデータを使いまわしたのだから、故意を認定するのが自然だし、生データが存在しないのだから規定どおり捏造を認定しなければならない。少なくとも生データが存在しなことに対して著者の責任を問わないことは不適切だ。少なくとも主たる実験の実行者で最大の責任者である立石、Sonooや責任著者の柳澤純は本件について責任をとらなければならない。
国立環境研究所や筑波大学から本件について懲戒処分が出たという公表はないから、懲戒処分はまだ出ていないのだろうが、懲戒処分が出ないという著しく不適切な対応がないとよい。
立石らに対してはさらに別の論文で捏造が指摘されている[6]。[6]-その2をみると以下の論文に捏造が指摘されている。
EMBO J. 2004 Dec 8;23(24):4813-23. Epub 2004 Nov 11.
Ligand-dependent switching of ubiquitin-proteasome pathways for estrogen receptor.
Tateishi Y (筆頭著者), Kawabe Y (筆頭著者), Chiba T, Murata S, Ichikawa K, Murayama A, Tanaka K, Baba T, Kato S, Yanagisawa J (責任著者).
立石らが筆頭著者、柳澤純は責任著者、加藤、村山も著者になっている。[6]その1の捏造指摘の一部はこの論文のデータとの重複を指摘しているので、[6]その2の指摘と一部重なるが、[6]その2の上から3番目の指摘は独立のもの。画像張り付けの痕跡と思われる不自然な切れ目が存在する。こういうのは意図的に画像操作したと考えるのが自然で言い分けは通じないだろう。
この論文には訂正は出されていない。2004年11月発行で立石の博士号取得が2005年3月だから、おそらくこの論文は立石の博士論文の審査対象の一部だ。その論文が撤回されたら立石の博士号は取り消しということもあるかもしれない。もっとも、対処するとしても立石の博士号に影響を出さないためにもMCB論文と同じくわざと訂正で済ませるのだろうが。
論文2編でこれだけたくさん捏造疑惑を指摘され、筆頭著者が不正の責任をとらされなかったら著しく道理に反する。責任著者も同様である。柳澤純は他の論文でも不正疑惑がある。
立石らの事件や加藤茂明事件は不正疑惑が発覚してから十分な期間たっても未だに調査結果や懲戒処分が公表されない。日本分子生物学会が迅速な調査結果の開示を求めたように、多くの人が調査機関や所属機関の対応に厳しい目線を向けている。
国立環境研究所などは国民からそういう目線で見られていることを忘れないでほしい。くれぐれも不正の隠蔽や激甘処分をしないでほしい。
参考
[1]立石幸代の紹介(国立環境研究所)。環境研のページによると立石は2011年頃は国立環境研究所環境健康研究センターに所属していたことがわかった。ただ、現在公開されている名簿等をみても立石の名前がないので、辞職していたり別機関に所属している可能性はある。少なくとも懲戒処分を受けて解雇されたという公表はないので、国立環境研究所を解雇されたということではないようだ。念のためにいうと、2012年12月26日現在に環境研の懲戒処分公表をみると、2009年12月に減給処分が出たという公表だけだった。
2011年11月の口頭発表の案内で立石が国立環境研究所環境健康研究センターに所属しているという記載がある、さらに2012年3月21日受付、6月8日受理の論文では同所属なので、本件について告発を受けた時の所属は環境研だと考えられる。文科省の規定によれば告発を受けた時の現所属機関等に調査義務がある。
[2]立石幸代の博士論文 国立国会図書館 2005.3.25
[3]MCB論文の訂正 2012.12.26閲覧
[4]加藤茂明事件の告発ページと村山明子が筆頭著者となっている論文の捏造疑惑。
[5]捏造等の不正があれば撤回されるのが通常というのはあくまで私の主観。私が見た多くの論文は不正があれば撤回されていた。ただ、最近加藤茂明事件で日本分子生物学会が論文の撤回だけでなく訂正を要求していたことを考えると、不正があっても論文の結論を毀損しないなら訂正で済ませるのも許されるという考えもあるのかもしれない。その場合は捏造等があっても訂正で済むのだろう。
[6]立石らの論文への捏造指摘-その1。別の論文への捏造指摘-その2。
[7]柳澤純グループの不正疑惑を筑波大に指摘したというネット情報。2012.2
(2012-12-26 23:31:01発表)
加藤茂明事件の中間報告で同事件の閲覧者が多いので関連事件の同記事をしばらくの間トップに移動します。この記事で言及した2論文は中間報告で発表された不正論文に含まれていません。しかし、それは不正がなかったからではなく調査対象から外れていたためです。中間報告によると加藤茂明が責任著者になっているか加藤研の人が筆頭著者になっている論文で加藤の東大在籍以降のすべての論文を調査したと言及されているので、この記事の2論文は調査対象外です。筑波大に質問したところ柳澤研独自の不正疑惑については同大で調査されているそうです。