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大量疑義事件の論文著者の顔写真や経歴の取り扱いについて

大量疑義事件で論文著者の顔写真や経歴にリンクを張って紹介する行為がやり過ぎで人権侵害だという件を某サイエンスライターの方がブログで掲載しています。顔写真や経歴や肖像権やブライバシー権が問題になり、本ブログとしては以下のように考え顔写真や経歴の紹介は現段階では問題ないと判断しました。

まず、肖像権、プライバシー権は次のような権利です。

肖像権:自分の顔や姿をみだりに他人に撮影・描写・公表などされない権利
プライバシー権:個人の私生活を勝手に公開されない権利

顔写真にリンクを張る行為は肖像権やプライバシー権の侵害、経歴にリンクを張る行為はプライバシー権の侵害が問題になります。確かに勝手に公開するとこれらの権利侵害になり得ます。しかし、これらの権利も無制限ではなく表現の自由との関係で調整があります。判例によると肖像権は公共の利害に関係する事柄で、公益を図る目的でなされ、公表内容が相当の場合は違法性がなく紹介は認められると考えられています関連)。(判例を見る限り肖像権に関しては記事内容の真実性は要件になっていません。)

本ブログの大量疑義事件の紹介は論文の不適切さを主に扱うもので、それは間違いを正して研究が健全に行われることに役立てる等、学術コミュニティの利害に関することで、主にそれを目的に公表された記事です。またリンク先の顔写真もせいぜい上半身の一部が写った程度で、被写体の人物が自分で撮影又は撮影を承諾し、自分で公開した写真にリンクを張っているだけですから、内容として相当性を欠いたとはいえないと思います。

某サイエンスライターの方のご意見だと「やり過ぎ」という事ですが、例えばリトラクションウォッチ小室一成氏の基礎研究疑義を紹介した時のフォーブス誌写し)、バルサルタン事件時のフライデー誌、STAP事件時の各週刊誌の報道、大量疑義事件の一つである門脇孝東大病院長の顔写真と実名を日刊ゲンダイが報道した事など研究不正の疑義段階で顔写真付きで内容を紹介した報道はざらにあり、本ブログの顔写真の扱いが数多くある顔写真付きの疑義報道に照らして社会的相当性を逸脱したものと判断しませんでした。

プライバシー権に関しては前に述べた通り、「宴のあと」事件(東京地判昭和39年9月28日)の判例に基づいています。それによると、

(1)私生活上の事実または事実らしく受け取られるおそれのある事柄であること。(私事性)
(2)一般の人々にいまだ知られていない事柄であること。(非公開性)
(3)一般人の感受性を基準にして当該私人の立場に立った場合、公開を欲しないであろうと認められる事柄であること。

がプライバシーに当たる3要件。最近は(3)だけでプライバシー権を判断する判例もあるようです。しかし、顔写真や経歴は対象者が自分で公開した内容にリンクを張っているだけで、いずれの基準に従っても権利侵害はないと考えます。現実の報道例としてはバルサルタン事件でノバルティスファーマー社の元マーケティング部長の公開された経歴をフライデーが報道しました

そもそも、顔写真や経歴などに関する肖像権やプライバシー権は個人の人権で、権利保護の対象となっている者が自分でネットで公開又は公開する事に承諾したのだから、公開した内容にリンクを張って紹介しても特に問題ないと思います。自分で知られても構わないと思って不特定多数に公開した情報なのに「知られたくないんだ!」と言うのは背理ではないでしょうか。

研究不正に限らず、週刊誌等は顔写真や経歴付で報道する事がありますが、それは上記のような考えに基づいているのではないでしょうか。

とはいっても、これはあくまで判例等に基づいた考えで、顔写真の公開等に関して人権に配慮しなければならないのはよく言われる事です。例えば事件報道の被害者の顔写真等がよく問題になっています。報道の議論を見ると、原則使っても構わないが被害者等の人権を配慮すべき等、いろいろ意見があって統一的なルールはないように思いました。実名や顔写真等を研究不正のどの段階で扱ってよいのか、マスコミではどういう基準で扱われているのかは上で調べた判例以上の基準は見つかりませんでした。例えばバルサルタン事件の白橋伸雄の場合もフォーブス誌は疑義段階で実名を報じたのに、日本の新聞では逮捕まで伏せられていたという違いがありました。市民団体が刑事告発する時には逮捕前でも実名を出して告発文を公開しました。顔写真もリトラクションウォッチのようにネットで掲載されたものは基本的に紹介しているように(私には)感じられるものや、日本の新聞のように不正が認定されても全然紹介しないメディアもあります。

私は記事公開に際して人権に配慮しないといけないと思うし、相当性を欠いた個人情報の紹介は控えようと思います。ただ、人権侵害を恐れる余りに過剰に個人情報の執筆を控えると質の高い記事の執筆や公益に資するという目的が阻害されてしまいます。それは適当ではないと思います。どの程度が相当かという基準は上で述べたとおり、上の判例以上の基準は見つかりませんでした。某サイエンスライターのご意見のように「やり過ぎ」と思われる方もいらっしゃると思いますが、判例に従えば私の紹介した程度は許容され得るとことや週刊誌やネットの著名サイト等が研究不正の疑義段階で顔写真や経歴等を付けて紹介する事がよくあり、対象者がそれらを自分で公開した事を考えると、本ブログの顔写真等の扱いが違法で相当性を欠くと判断しませんでした。

以上。


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