研究の再現性がない事は捏造となるか。一般には捏造とは断定できない。原因が特定できないからだ。再現性がない原因は捏造だけでなく研究に計算ミスや実験の間違いがある事、特許等のため重要な技術が隠されている事などが考えられる。ただ、いずれの原因でも再現性が確認されない研究は正当と判断されず嘘と言われても仕方ない。無論、研究者の名誉、信用、評価は一般に下がる。
では再現性なしがいつでも捏造と判断できないかというとそうでもない。捏造と判断できる場合とそうでない場合の例を紹介する。
(1)捏造でない例 - 超光速ニュートリノ
2011年9月にCERNでOPERAという研究チームがニュートリノの速さが光速を超えるという実験結果を発表した。特殊相対性理論に矛盾する結果で当時は大きく報じられた。しかし、これは2012年に光ケーブルの接続不良や、ニュートリノ検出器の精度が不十分だった事が原因で研究成果は撤回された。当然再現性は得られない。これは原因が特定できたので捏造でないと断定できた例。
(2)捏造と断定できない例 - 野口英世の病原性梅毒スピロヘータの純粋培養
1911年に 野口英世は病原性梅毒スピロヘータの純粋培養に成功したと発表。しかしその後誰も再現に成功せず、現代では野口の病原性梅毒スピロヘータの純粋培養は否定されている。これが捏造によるものかそうでないのかは原因が不明なのでわからない。
(3)捏造の例 - STAP細胞捏造
昨年末理研がSTAP細胞論文の再現性がない事を正式に公表した。調査ではさらにSTAP細胞の正体がES細胞だった事も明らかにされたが、混入者が不明で故意か過失かも不明とされた。従って正式には捏造とされていない。しかし、この事件は再現性がない事を捏造と判断してほぼ間違いない。再現性がない事は論文の方法では万能細胞を作れない事を意味するが、論文では何度もキメラマウス作製やテラトーマ形成等の多能性の証拠が掲載されている。研究者が何らかの万能細胞を扱った事は確実で、再現性がない事等を考えると体内に存在していた未分化細胞が紛れ込んでいてスクリーニングした可能性も否定されるから、論理的にいって既存の万能細胞を何度も混入させた又はすり替えたとしか考えられない。そういう原因が強く推認される事を考えるとSTAP細胞は捏造と考えてほぼ間違いない。現に世間では小保方晴子がES細胞を故意に混入又はすり替えてSTAP細胞を捏造したという見方が大勢だ。
以上、いろいろあるが最初に書いたとおり再現性のない研究は正当と判断される事なく嘘と言われても仕方ない。現実の論文はほとんど読まれず追試が行われないので生き残っているのが実情だが、検証された時にきちんと説明できないと事実上不正と見なされる事がある。例えばディオバン事件は統計解析のデータを恣意的に書き換えた事が原因で公式には故意か過失か不明とされ「改ざん」ではなく「操作」や「操作の可能性」という不思議な言葉で説明されたし統計解析者等は故意を否定したが、都合よくデータを書き換えて有利な結果を捏造した事が通常過失と考えられないので、世間では実質的に改ざんがあったと考えられている。多比良和誠、川崎広明の捏造事件も正式には「再現性なし」という結論だが、世間では事実上捏造があったと考えられている。
再現性のある研究発表をするのは当たり前で、きちんと証拠を示して説明できないと嘘と言われても仕方ないのが学術界である。