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研究不正における立証責任について

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研究不正における立証責任はガイドラインが改定される前から被告発者が負うと定められている。つまり、被告発者が自己の説明で不正の疑いを覆せない時は不正と見なされるのがルールだ。改定ガイドラインもそれは変わっていない。一方で、裁判では研究不正の立証責任は告発者又は調査機関が負担し、高度の蓋然性の証明が要求される。学術界のルールと裁判のルールが逆転している事は問題ではないかと指摘されている。

研究界ではなぜこのようなルールになっているかというと、学術会議の不正に関する議論を見ると不正の疑いを覆せない時は不正と見なされるのが研究者の常識という見解を見た。つまり、研究者は基本的注意義務をはらって正しい方法で研究遂行し正しい研究成果を公表する義務があり、正しい方法で正しい結果が得られた事を証明し説明する義務があるという事だろう。例えば小保方晴子のように「STAP細胞はあります!200回以上作製できました。実験は確実に行われており、テラトーマの画像などは捏造ではありません!」と涙ながらに感情的に訴えても、それを立証する客観的証拠を一切出さず、実験ノートもポエムのような内容で実験が行われた裏付けができない場合は不正と見なされても仕方がない。現に研究者は誰も小保方晴子の見解を信じなかった。多比良和誠、川崎広明の不正事件も東大は「生データ、実験ノート等がなく再現性も得られない研究は捏造と言われても仕方ない。」と断じている。研究者が証拠提示や説明をせず、正しい方法、正しい結果だったと主張するのは科学ではない。

これは私の推測だが、被告発者に立証責任をかす実質的理由は不正のごまかしや証拠隠滅を防止する事だと思う。ガイドラインができる前から研究不正の問題が起きると被告発者が生データや実験ノート等を破棄して、適当な理由をでっちあげて過失を主張又はだんまりを決め込んで不正をごまかす事が多かった。現在でもよく起きる。小保方晴子の事件、多比良・川崎事件、井上明久事件、シェーン事件など多くの例がある。告発側に立証責任をかし、高度の蓋然性の証明を要求すると、必ずといっていいほど被告発者は生データ等を破棄して追跡を不可能にし、調査や質問では適当な理由をいって過失を主張するかだんまりを決め込んで不正をごまかそうとする。こういうやり方を認めると、多くの場合で黒が白になるという不条理な結果になるので、それを防止するのが被告発者に立証責任をかす必要性だと思う。特に研究不正は証拠が被告発者側に偏在し任意調査で行われるので、被告発者が不正の疑いを覆す必要性を作らないと公正な調査にならない。告発者や調査機関は警察のように強制的に証拠物を捜索、差し押さえできるような捜査ができないのだ。

では、調査側が不当に研究不正を認定し被告発者が濡れ衣をきせられる心配はないのか、という見解もある。これは研究者が基本的な注意義務を守って、正当な研究を遂行していればほぼ防げるだろう。まず、存在しないデータ等を作る、恣意的にデータを変更、選択削除するという事は故意に行わなければまず起きないし、研究者が適切な研究遂行をしていればほぼ防止できるし、疑いをかけられても実験ノート等の提示で潔白で証明できる。証拠は被告発者に偏在しているのが通常だから、被告発者に立証責任の負担をかしても大丈夫だという許容性もあるのかもしれない。もっといってしまうと、調査側は被告発者の所属機関なので不正を認めると自分たちの信用や評価が下がるため、通常は不正を認めたがらないし、被告発者に濡れ衣をきせてまで不正を認定した例を知らない。井上明久事件や琉球大学の岩政輝男元学長の不正論文の件、Kyoto Heart Studyのお手盛り予備調査、生データ等の提出がなかったのに不正を認めなかった藤井善隆事件の東邦大の調査や小保方晴子の桂勲委員会の調査など、黒を白とした例はいくつもある。ガイドラインは蔑ろにされているといっても過言ではない。だから、Nature等をはじめとして多くの研究者がORIのような研究調査機関を作れと何年も前から主張しているが、全然実現していない。

話を立証責任の問題に戻すと、欧米でそれがどのようなルールになっているかは正確な文献を見たことがないので不明だが、少なくとも日本の裁判のように告発者側に立証責任を負担させ、高度の蓋然性の証明を要求すると、上で述べたような証拠の隠滅、だんまり、ごまかしという立証妨害が必ず起きて、およそ研究不正が認定されなくなるだろう。多くの黒が白となる極めて不条理な事が発生する。桂勲委員会のように小保方晴子が生データや実験ノートを提示しなかったのに不正を認定せず、理研が「実験は行われていた」と認定して研究費の返還を論文投稿に限った約60万円程度にした事は不正責任を不当に免れさせているので、非常に不条理だ。

立証責任の原則は解釈や法律で変更できる。例えば名誉棄損の違法性阻却事由の立証責任は検察官が立証責任を負担するという原則が修正され被告人側が負担する事になっている。井上明久事件は最高裁に上告されたので、最高裁がガイドラインに合わせた立証責任を判示してほしいと思う。


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