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なぜ研究不正の立証責任は被告発者が負担するのか?

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日本の研究不正のガイドラインでは被告発者が立証責任を負う事が明示されている。

「特定不正行為に関する証拠が提出された場合には、被告発者の説明およびその他の証拠によって、特定不正行為であるとの疑いが覆されないときは、特定不正行為とされる。」(ガイドライン p17

これがなぜか検討する。

文科省の文献で、その根拠は「研究活動とその公表の本質(先人の業績を踏まえつつ、自らの発想に基づいて行った知的創造活動の成果を、検証可能な根拠を示して、研究者コミュニティーの批判を仰ぐ)からすれば、被疑研究者が「不正行為」を行っていないことを立証する責任を負うものである。」と述べられている。

不正であるとの疑いが覆される場合とはどのような場合か。論理的にいって、正しい方法で得たデータや結論が正しい又はアネストエラーだった場合だ。文科省ガイドラインは不正の疑いをかけられた時、これらの立証責任を被告発者が負担せよという事だ。このうち正しい方法で得たデータや結論が正しい事の立証責任を被告発者が負担するのは科学の本質からいって自明かつ当然だ。文科省文献で述べられたように、科学では発表者が正当な方法で得た検証可能な根拠を示して学術界からの批判に耐え自ら主張を証明してはじめて正当と認められる。そういう事をせずに正当と認められる事はなく、根拠を示さず、自ら証明せず主張を正しいとするのは科学ではない。

典型はSTAP細胞に関する小保方晴子の会見だ。「STAP細胞はあります!200回以上作製できました。」と涙ながらに感情的に訴えても、肝心の科学的根拠を一切示さず、科学的説明をしなかったから、学術界では正当と認められる事はなかった。むしろ「STAP細胞はない。小保方晴子氏の主張は嘘。」という見解が支配的だった。

では、アネストエラーだった事の立証責任を被告発者が負うのはなぜか。アネストエラーとは軽過失とほぼ同義で具体的には誤植や計算ミス等の単純ミスなど。正しい方法で正しいデータや結果を得たことの立証責任が被告発者にあるのは科学の本質からいって自明だと思うが、アネストエラーだった事の立証責任をなぜ被告発者が負うのか。思うに、それは正しい方法で研究を実施した事の立証責任を被告発者が負う事や証拠隠滅・立証妨害の防止が理由ではないか。

具体例を出すと、小保方晴子のテラトーマ画像の捏造では、小保方晴子らがテラトーマ画像を博士論文から流用した疑義が出され、小保方晴子らは訂正用の画像を提出し、「真正な画像があり、これと取り違えた。」と弁明した。では、訂正用画像が本当に実験で得られた正しい画像なのか調べると小保方晴子の実験ノートがポエムのような内容でそれを科学的に裏付けられなかった。科学では「正しい方法で正しい結果を得た」事を発表者が証明しないと正当と見なさないという慣習なので、訂正用テラトーマ画像は正しい実験で得られたものでなく、小保方晴子らの取り違いの説明は認められないと判断され、捏造と判断された。これは至極当然の判断で、ガイドラインの規程にも合致している。小保方晴子が取違いによるアネストエラーと主張するなら、訂正用画像が正しい実験で得られた正しい結果だった事を証明しなければならないし、それができなければ正当と見なされないのは科学の慣習から当然である。

証拠隠滅・立証妨害の具体例は多比良和誠、川崎広明の捏造事件や小保方晴子の事件で、生データや実験ノートが不提出だった事など。多比良・川崎の事件で生データ等の破棄が起きたのでガイドラインでは特に生データ等の不存在で疑いを覆せない時は不正とみなすという規程になった。この例に限らず、不正嫌疑をかけられると被告発者が生データ等を破棄して立証妨害をする事は珍しくない。井上明久、張のように実験ノートや試料が天津港でコンテナごと海に落ちて消えたという弁明すら存在する。不正調査は研究遂行過程の調査が必須で、こういう時に告発側に故意又は重過失だった事の立証責任をかすと、大概の被告発者が生データや実験ノートを提出せず、調査ではとぼけたりだんまりを決め込んで不正をごまかそうとする。桂勲委員会に対する小保方晴子の態度がまさにそうだった。桂勲委員会は生データ等の不提出のために数々の不正を認定せず、小保方晴子はごまかし得となった。これでは著しく公正さを欠き非常にまずく、小保方晴子のように生データ等を提出せず、聴取にもだんまり又はごまかしを行えば不正をごまかせるという事になってしまう。桂勲委員会がこのような判断をした理由は裁判でアネストエラーでなかった事の立証責任が告発側にあると考えた事が一番の原因だと思う。必ず改善しなければならない。

米国規程でもアネストエラーだった事の立証責任は被告発者が負うと定められているし、日本の民事訴訟でも立証責任は法律要件分類説が判例・通説で、規程の内容や解釈によって立証責任は変化する。だから、アネストエラーだった事の立証責任は被告発者が負担する事にしても訴訟上も問題ないはずだ。むしろ現行ガイドラインや米国規程の取り扱いと訴訟上の取り扱いを合わせないと小保方晴子事件のようなことになって非常にまずい。おそらく米国規程で生データ等の不存在でアネストエラーだった事の立証ができなかった時に不正が推認されるのも証拠隠滅、立証妨害防止等が理由だろう。

井上明久事件が最高裁に上告されたので、最高裁が適切な判断をくだすことを期待する。


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