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学位論文の不正での学位取り消し基準について

学位論文に不正があった場合に学位を取り消すべきかは議論になるかもしれない。O 30代女性研究者(以下 O)の博士論文は序章の部分に約20ページほどの盗用があり、世間は取り消し相当と批判したが、某有名大学の調査委員会は学位維持と結論した。その後、総長が猶予付きの取り消し処分とし、先月末あたりで取り消しが決まった。

Oの博士論文の調査を行った委員会は取り消しのためには、不正と学位授与との因果関係がなければならず、序章の部分のみに剽窃があったから取り消しとしないと判断した。もう一つの理由は学位の取り消しは就職や学歴の基礎の破壊になり影響が大きいので条件を厳しくしたという事だった。

世間は某有名大学の判断を猛烈な批判したし、私もOの博士取り消しは相当だと思うが、学位取り消しが就職等に大きな影響を与えるので条件を厳しくするという考えは少し理解できる。学位取得は学部や大学院の卒業と同等の意味があり、それの取り消しは卒業取り消しと同じだ。大概の人は学歴を基礎に就職しているので、不正による学位取り消しは最悪の場合解雇になり得る。実際に某国立大学では不正取得の博士号をもとに採用された事を一つの懲戒事由として某トルコ人助教を懲戒解雇相当にした。

学位論文に不正があれば相当の懲戒処分を受けても仕方ないと思うが、少しの不正で学位取り消しにしてしまうと罰と不正が釣り合っていないと思う。よく入試や資格試験で不正があれば不合格、合格取消しになるから、学位審査も同様にすべきだという主張があるが、これからは主に現行犯かそれに近い状態で不正が取り締まられ、その後に積み上げた要素がなく、キャリアを台無しにするおそれのある学位取り消しとはその点で質的に異なる。事後的な学位取り消しの方がもっと条件を厳しくした方がよいのではないか。

それに少しの不正なら相当の処分を受けるかもしれないが、その時の審査は不合格になっても、大概は書き直して再提出し、再審査される。だから、少しの不正なら学位論文の事後的修正でもいいかもしれない。

では、学位取り消しになる不正とはどのようなものか。Oの出身大学や某国立大学の例を見ると、論文の結論に影響が出てしまった場合は取り消しの一つの基準かもしれない。某国立大学は不正のあった複数の博士論文のうち、不正で論文が成り立たないものに限って博士取り消しとした。この考えはOの出身大の考えと基本的な部分が共通する。一般の査読付き論文でも結論に影響があると撤回になるので、この場合は取り消し相当かもしれない。

ただ、Oのように結論に影響がなくても大量に盗用したり、重大なデータや結果に不正があった場合は取り消し相当だと思う。

実際にどの程度で取り消しになるかは調査委員会が不正の態様に応じて判断するしかないが、取り消し相当でない不正の範囲を広げ過ぎない事は重要である。そうでないと不正な方法で学位取得する危険が増す。

私は学位論文の不正をよいと思わないが、不正による事後的取り消しは要件を少し厳しくした方がいいのではないかと思う。


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