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全能(オールマイティ)と万能の違い

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全能と万能の違いを質問する文献を見た。関連する記事は以前も紹介した。

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全能

どんなことでもできること。完全無欠な能力。「全知―の神」

大辞泉より

何事でもなしうる能力。 「全知−の神」

大辞林より

万能

1 すべてに効力があること。「金は―ではない」「―薬」

2 あらゆることにすぐれていること。なんでもできること。「―選手」

大辞泉より

? すべての物事に効能があること。万事に役立つこと。 「科学−の時代」 「 −薬」 ? いろいろな物事にたくみなこと。 「スポーツ−の人」 「 −選手」 → まんのう(万能)

大辞林より

オールマイティ 【almighty】

1 なんでも完全にできること。また、そういう人や、そのさま。全能。「勉強もスポーツもよくする―な人」

2 トランプで、最も強い札。ふつうは、スペードのエースをいう。

大辞泉より

オールマイティー〔almighty〕

( 名 ・形動 )

? トランプで,いちばん強い札。切り札。普通,スペードのエースをさす。 ? なんでも完全にできること。また,その人。全能。 「スポーツにかけては−だ」

大辞林より

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代表的な国語辞典で調べると上の通り。全能と万能はいろいろなことがよくできる点では共通しているが、できることの範囲と程度が全然違う。

まず範囲だが、万能は「いろいろな物事にたくみなこと。 」を意味することがあるように多くのことに対して優れている様を表すことがある。必ずしも全てのことに優れている場合だけを指すのではないし非現実的なことはできない。それに対して全能は非現実的なことを含めて全てできるという意味しか表さない。例えば万能者は美術もスポーツも学問もよくできるという程度だが、全能者は美術やスポーツや学問だけでなく、死人を生き返らせるとか、いきなり昼を夜に変えるということもできる。全能者は非現実的なことであろうと全てできる。

そして程度は、万能はよくできる、優れている、という程度だが、全能は完璧にできる。全能は完全無欠の能力だ。例えば野球の場合は万能者は打撃では打率3割超え、守備でもどのポジションも上手くこなせるという程度だが、全能者は打てばいつもホームラン、投手を務めればいつも打者を三球三振にしてパーフェクトを達成する。

全能と万能の違いがわかっただろうか?

ここまで説明すればわかったと思うが、全能は非現実的な能力で存在する生物では持ち得ない能力だ。神の能力である。キリスト教などで「全知全能の神」ということがあるが、この場合の全能とはまさにこのような能力のことを指す。

ところで、皆さんはオールマイティという言葉を聞いたことがあるだろう。上で国語辞典の意味を紹介した。おそらくオールマイティを万能という意味で使う場面に接したことがある人は多いだろう。オールマイティの意味を万能だと虚偽説明する人すらいる。元々外国語であるものが日本語になると日本語特有の意味になるので、オールマイティが万能という意味でも間違いではないと主張する文献も見たことがある。

しかし、このような考え方は明らかに間違いであり、オールマイティを万能という意味で使うのは以前紹介したように正確には誤用である。なぜなら、たとえ外国語に由来する言葉が日本語特有の意味になり得るとしても、日本語のオールマイティの意味は国語辞書に載っている意味が正しい。大辞泉、大辞林など代表的な国語辞典はオールマイティを全能という意味でしか載せていない。従って"オールマイティ=万能"は日本語の意味としても間違いである。

現在の"オールマイティ=万能"という使い方は正確には誤用であって、今のところは正しい使い方ではない。外国語由来の言葉が"オールマイティ=万能"という日本特有の意味として使われているから正しいという考え方は完全なでたらめである。従ってこの文献は現在のところはでたらめである。言うまでもないが、正しいのは国語辞書の意味であり、世間の多くが使っている意味ではない。この文献インテリがインテリジェントという意味でよく使われるから、インテリの日本特有の意味として"インテリ=インテリジェント"という誤用を正しいといっているのと同じだ[1]。

もっとも、誤用が定着すれば国語辞書に誤用の意味が定着し正当化することは将来的には考えられるだろう。そういう意味では上ででたらめといった文献も将来的には正当化される可能性はあるだろう。現在はでたらめと言う他ないが。

参考
[1]インテリインテリゲンチヤ(知識階級)の略。国語辞書には今のところこの意味しかない。


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