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身近な監視者 - 第1話「身近な監視者」

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ある桜の咲く穏やかな日、優作とその一家は新居地の見守町に向かって小高い高速道路を走っていた。

優作「もうすぐ見守町につくぞ。」
幸作「大きな木の見える街だね。父さん。」
桜「本当。とてもよさそうなところね。あなた。」
優作「そうだろう?僕もこの街の雰囲気や景色が好きで新居地に選んだんだ。僕は子供の頃からこんな街に住んでみたかったんだ。この街を見ていると、心優しく幸せな気持ちになってくるだろう?」
幸作「そうだね、父さん。この街を選んでくれてありがとう!」
桜「私もそう思うわ。」

運転しながら優作はにっこり微笑んだ。

優作「見守町に降りるぞ。」

優作はインターチェンジを降りて見守町に入った。街路には満開の桜の木が立ち並んでいて、人々も幸せに満ちているように見えた。しばらく街を走って新居の前で優作は車を止めた。

優作「ここが今日から僕たちの住む新しい家だ。」
幸作「大きくて立派な家だなー。こんなところに住めるなんて。」
桜「本当に。あなたと結婚した時には、こんな家に住めるなんて夢にも思わなかったわ。」
優作「僕の稼ぎに感謝するんだね!」
桜「あなたは名探偵ですものね。」

実は優作の高収入には理由があった。なんと優作は人の心をよむことができるのだ。警察や個人、法人の客からしばしば事件を依頼され、その能力を使って数々の難事件を解決してきた。そのため評判が評判をよび、優作は名探偵の名をほしいままにしていた。今では名探偵池川優作の名を知らない者はいない。無論、優作はその能力を悪用する事はなく、必要がある時だけしか使わない。その事は家族や友人、顧客たちも皆知っていたので、誰もが安心していた。

しばらくすると荷物が届き、優作らは業者の人たちと協力して家具を新居に配置した。業者は仕事を終えて帰って行った。

優作「ふぅー。やっと終わった。夕飯はどうしようか?」
桜「今日は何も買い物に行ってないし、外食しましょう。」
優作「そうするかな。」
幸作「やったー。」

優作一家は繁華街のファミリーレストランで夕食をとった。

幸作「おいしかったー!」
桜「あのレストランなかなかよかったわね。また行きましょう。」
優作「そうだな。」

幸作は左右の手をそれぞれ優作と桜とつなぎ、一家は並んで街路を歩いた。そして桜は街を歩く人々を見て優作に話しかけた。

桜「この街の人たちは本当にみんな幸せそうね。人はそれぞれ苦しみや悲しみを抱えて生きているのに不思議ね。」
優作「そうだな。きっとみんな少なからず苦しみや悲しみを抱えていると思うけど、強く生きていこうと思わせる不思議な空気がある。みんなきっとそれに助けられているんだ。」
桜「あなたエスパーだけあって、いう事がファンタジックね。でも、そういう空気を私もなんとなく感じるわ。」

その時、優作の心に語りかける者がいた。

謎の声(やあ、こんばんは。君が名探偵の池川優作君だね。)
優作(君はいったい誰だ?どこから僕に話しかけている?)
謎の声(私は身近な監視者といったところだ。今も君たちを見ているよ。)
優作(近くにいるんだな?現れて名を名乗ってくれ。)
身近な監視者(私に名乗る名はないよ。それに私はもう現れているよ。)
優作(何?からかっているのか?名を名乗らず隠れ、近くで監視、気持ち悪いじゃないか。)
身近な監視者(君たちはそう思うかもしれないが、私に悪意はないよ。ところで、君に頼みたい事があるんだ。)
優作(事件の依頼かい?それなら後にしてくれないか、今日はこの街に来たばかりで仕事は明日以降なんだ。)
身近な監視者(知っているとも。でも君しか頼める人がいなくてね。)
優作(ははーん。君は匿名の依頼者というわけか。身元を隠して、やばい仕事を依頼しようってんだろ?それなら引き受けないよ。)
身近な監視者(やばい仕事なんて依頼しないから安心したまえ。)
優作(じゃあ、どんな依頼だ?)
身近な監視者(明日、ある場所に行って女を捕まえてほしいんだ。名は水目桜。38歳。殺人事件の容疑者で、この街のアパートに隠れている。)
優作(桜か、妻と同じ名だな。それなら警察に通報すればいいじゃないか。)
身近な監視者(それができない事情があってね。)
優作(ははーん。君はその女と関係があるってわけか。自分で通報すると不都合なんで匿名で依頼してるんだな?)
身近な監視者(そんなところだな。で、引き受けてくれるかな?)
優作(こんな匿名の依頼は通常断るんだが、これはこの街に来て最初の依頼だから特別に引き受けよう。)
身近な監視者(ありがとう。)
優作(女の詳しい特徴と隠れ場所の正確な住所を教えてくれ。)
身近な監視者(住所は見守町梅坂2-1-1梅坂荘109号室、特徴はインターネットで女の名を調べれば顔写真や身長等が出る。警察に聞いても教えてもらえるよ。)
優作(わかった。報酬は?)
身近な監視者(後で必ず払うよ。)
優作(おいおい後払いか。普通は着手金を頂くんだが、まあいいや。最初の事件だし、簡単そうだから特別にそれでよしとしよう。)
身近な監視者(ありがとう。よろしく頼んだよ。)

身近な監視者の声は消えた。

桜「あなた、どうしたの?」
優作「心の声で事件の依頼があったんだ。」
桜「まあ、誰から?」
優作「事情で名乗れないらしい。この街に来て最初の事件で、簡単そうだったから引き受ける事にしたよ。そういうわけで明日は出かけるから。」
桜「気をつけてね。」

家につき、優作はスマートフォンで身近な監視者からの情報を確かめた。

優作「身近な監視者か。穏やかな声だった。近くにいて、僕たちのところに現れていた?しかも、僕たちがこの町にきたばかりという事を知っていた?どこまで本当かわからないが、いったい誰なんだろう?」

不思議な声の主の正体が気になりつつも、明日の事件に備え、優作は床についた。

(2016年4月7日執筆)


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