Boolean Pythagorean triples problem(ブールピタゴラス数問題)がスーパーコンピューターを使って解決された。証明したのはイギリスのスウォンジー大学のMarijn J. H. Heule、 Oliver Kullmannと米ケンタッキー大学のVictor W. Marek。
ピタゴラス数とはa2+ b2 = c2 を満たす正の整数の事。例えば3,4,5など。
Boolean Pythagorean triples problemとはピタゴラス数が全部同じ色にならない様に全ての正の整数を赤と青で着色できるかという問題。例えば3,4を赤にしたら、5は青にしなければならない。
Heuleらはスーパーコンピューターを使って1から7824まで膨大なパターンを分析し条件にあう着色ができる事を確認したが、1から7825までは条件にあう着色が不可能である事を確認した。1から7825までは102300 通り以上の着色方法があったという。Heuleらは800台のプロセッサによる並列計算で約2日かかった。解答のデータは約200テラバイト。
Boolean Pythagorean triples problemは1980年代にRonald Grahamによって提案され、問題の解決者には米100ドルが贈られるという。たったそれだけ?安いなー。
コンピューターを使った数学の証明というと四色問題が有名。ガリレオの容疑者Xの献身で数学の天才が学生時代に四色問題に挑戦していて、主人公が「君はなぜその問題に挑戦しているんだ。四色問題は20年以上前に証明されているのに。」と尋ねると挑戦者は「あの答えは美しくない。」と回答した。
今回の証明法も数学者は同様の感想かもしれない。[1]でも副題で「but is it really maths ?」と言及された。もっと美しい証明の方が数学者は喜ぶに違いない。四色問題もBoolean Pythagorean triples problemも一般人には完全にどうでもいい問題で、数学者はなぜこんな事をやっているのかと思うかもしれない。
昔、世界名作劇場の牧場の少女カトリで、主人公が「私が今やっている算数の問題にチャレンジしてみる?30リッターの空の水槽に1分あたり5リッター水を入れます。水槽には穴があって1分あたり2リッター水が抜けます。何分で満杯になるか?」というような事を述べた。値は出てきたものと違うかもしれないが、こんな問題だった。
答えは1分あたり5 - 3 = 2 リッター入るから、30 ÷ 2 = 15分。
この問題を聞いた主人公と年の近い若者は「ふーん。算数ってなんでそんな事をやるんだ。俺だったら水槽の穴をふさいでから水を入れるけどな。」と回答。近くで一緒に問題をきいていた中年女性も「私もそう思うよ。」と回答。主人公は「これは算数の問題だから・・・。」と返答したが、20世紀初頭のフィンランドでは使用人は教育を受けないのが通常で、非現実的な問題を奇異に思うのだろう。彼らは学問は現実的に役に立たないと意味がないと考えるのかもしれない。
四色問題もBoolean Pythagorean triples problemも一般人には上と似たように感じるかもしれない。
こう言われてしまうと数学の研究なんて役に立たないものでマニアックな人が趣味でやってるだけと思われてしまうかもしれない。しかもほとんどの人は数学の証明を面白いと思わないから尚更関心を示さない。
例えば三角形のそれぞれの辺から垂直二等分線をひくと一点で交わるというのは中学校で学ぶ。こういう現象を見て面白いと思うかどうかは数学を面白いと思う人とそうでない人の違いかもしれない。ちなみに証明は簡単なので、わからない人はいないと思う。わからない人は考えてみればすぐわかる。
できれば今回の証明も面白さが伝わって現実の役に立つ日がくるとよい。
参考
[1]Nature NEWS, 2016.5.26, doi:10.1038/nature.2016.19990
[2]の証明の紹介部分は[1]を全般的に参照した。
[2]Heule, M. J. H., Kullmann, O. & Marek, V. W. Preprint at http://arxiv.org/abs/1605.00723 (2016).