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名古屋大学の博士論文盗用疑義について

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名古屋大学の博士論文盗用疑義について著名な研究倫理の専門家である白楽ロックビル先生(お茶の水女子大学名誉教授)が自身のサイトで解説されている

共同研究の成果物を他の共著者の承諾なく博士論文に使用した事や一部の成果は既に他の研究者の博士論文でも承諾済みで使用され、一テーマに一つの博士号授与という原則に反する事が問題となっているようだ。

名古屋大学は盗用を認めず、博士取消しはなかった。理由部分を引用すると

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「名古屋大学における研究上の不正行為に関する取扱規程」・・・においては、「盗用」とは、「他人の研究内容又は文章を適切な手続きを経ることなしに流用すること」と定義されている。
 本件共著者論文は、・・・自身が共同研究者として、アイデアの構想、研究成果の発表の提案及び執筆に加わっており、また、共著者の名前が列記されているものの、研究分担の記載はなく、客観的には共著者全員がオーサーシップの条件を満たしていると考えられる。したがって、「『他人の』研究内容又は文章を・・・流用」したものではなく、取扱規程にいう「盗用」には該当せず、「不正行為」の存在は認められない。
 もっとも、本件共著論文の使用においては、適切な引用の範囲を超えており、また、共同執筆者全員からの明確な使用承諾を得ていなかったことから、研究倫理上の課題がないとはいえない。

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(白楽ロックビル 研究者倫理

共同研究者の適切な承諾なく適切な引用の範囲を超えて使用した事は認められており、それなら盗用ではないかと思うが、盗用の認定を回避したいという考えがあるのかもしれない。

白楽先生は名古屋大学の盗用の定義も問題視されている。

文部科学省のガイドラインと各大学の規程が食い違って、適切でない例がいくつかある。例えば東北大学の規程では捏造、改ざん、盗用(以下、ネカト)については故意のみを対象とし、著しい注意義務違反による不正は大学の任意で扱う規程にしている(東北大学の規程4(1)(3))。文科省ガイドラインではネカトは故意と著しい注意義務違反を対象とし、東北大はそれに反している。これは適切でない。

大阪大学の規程では予備調査から本調査へ移る規程になっているが細則でガイドラインを歪めた規程にしている。大阪大学では予備調査員を内部者のみで構成し不正の有無まで調査対象としている。その後に本調査で予備調査結果の適切さを事後判断する規程になっている。

ガイドラインでは予備調査で不正行為の可能性などを調査し、本調査で不正の有無を調査する。そして本調査で半数以上外部者を委員とし、公正・中立さを確保する規程にしている。しかし、大阪大学は細則でこれらを骨抜きにするような規程にしている。

規程を歪めて扱っている例は他にもあるが、第三者機関が統一的に研究不正の問題を扱った方がいいのではないかというのは、これも理由の一つだ。東北大、大阪大学の規程をみると、ガイドラインを歪めて研究機関で不正を隠蔽できるようにした規程のようにも見え、各大学の任意性に任せるやり方には限界があるのかもしれない。

きちんと統一的、明確な研究不正の規程を解釈運用するためには第三者機関が必要だと思う、

共同研究の成果を勝手に使用してしまって盗用になった前例はいくつか存在する。昭和女子大学事件滋賀医科大学事件藤女子大学事件順天堂大事件など。このような前例を考えれば、今回の名古屋大学の博士論文盗用はずれている部分があるかもしれない。

一方同様の事例で盗用と判断しなかった例もある。名古屋工業大学学長の盗用疑義事件。この事件は最終的に盗用が認定されなかった。元学長の主張だと共同研究の成果だから自分の研究成果でもあって他人の研究成果ではないという主張のようだ。共同研究者の承諾を得たかは水掛け論のようになった。学長の不正なので、不正を認定しないという忖度が働きやすかったのかもしれない。後に裁判にもなったらしく、最終的に不正行為は認定されなかった。

ただ、共同研究成果を勝手に使ってしまって、承諾なし、著者からも省いたケースで盗用にならなかった例は私の知る限り名工大学長の事件と名大博士盗用疑義事件くらいだ。

ここで問題になるのは共同研究成果は自分のものでもあり他人の研究成果ではないから盗用ではないという主張の妥当性だ。名工大も名大もたぶんこのような理由で盗用にならなかったのではないか。これは白楽先生の考察のように成果物が可分かどうか等、検討すべき事が増え少し複雑だ。白楽先生のサイトによると可分の場合は、その部分の著者から承諾を得ればよく、不可分の場合は原則全員から承諾を得る事が必要。不可分の場合は代表者一人(たぶん責任著者)を定め、その者からの承諾を得てもよいようだ。出版側に著作権が譲渡されていれば、その承諾も必要。

たぶんここまで知らない研究者も多いのではないか。大学の調査者は自分の専門分野の専門家であっても研究倫理の専門家ではない。白楽先生のような著名な研究倫理の専門家であれば、きちんとわかるのかもしれないが、ここまでわかっていない調査委員が多いのだろう。研究倫理の専門家が必要かもしれない。

上の基準に従えば、名工大学長事件や名大博士盗用疑義事件は盗用になるのかもしれない。なぜなら、きちんと共同研究者の承諾を得ていない又は得た事を証明できない。そのケースは盗用になるだろう。

名古屋大学が本件を再調査しているのか不明。白楽先生のサイトによると先月に何か動きがあったようだ白楽先生の博士論文盗用疑義の記事はかなりの人気でよく読まれている。白楽先生が著名な研究倫理の専門家で影響力が大きいからだと思う。前例だと大学が一度出した結果の再調査をする事はなかったが、公正な再調査が行われてほしい。

また、同様の問題は今後も発生するだろう。特に文系では学生と教員の共同研究で盗用事件が発生する率が高いかもしれない。昭和女子大や滋賀医科大学は修士論文の成果を卒業後に指導教員が無断かつ単著で発表した例で、他の研究者も他山の石として注意しなければならない。滋賀医科大学事件藤女子大学事件では盗用犯が解雇になった。非常に責任は重い。

共同研究の成果を発表する時は、使用部分の著者が誰かをきちんと調べて承諾を得てから発表する事を心掛ける事が重要である。


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