前に研究不正の疑義について説明しないと不正を認めたと思われることがあると説明した。池上彰氏の解説ではSTAP問題で「単純ミスならささっと会見を開けばいいじゃないか。それをせずに黙っているのは疑惑を認めた。」と海外で思われていると説明された。確かに小保方晴子は昨年4月の会見まで逃げ回っていて全然説明しなかった。人クローンES細胞を初めて作成した立花真仁氏のCell論文も疑義が公表され、すぐに責任著者のシュフラート・ミタリポフ教授が説明し収束した。その点が日本と違う。
バルサルタン臨床研究の不正で由井芳樹の疑義の指摘に対して慈恵会医大がだんまりを決め込んだことに対して、世界は慈恵会医大が不正を認めたと目され、立石幸代元国立環境研究所ポスドクが反論を放棄し、無責任に逃げてしまったが、調査で改ざんが認定され、立石幸代の研究不正の責任が公式に認定された。日本でもだんまりを決め込んで反論放棄した場合に不正と見なされる場合があるようだ。
文系の和文誌等ではないかもしれないが、理系の英文誌には「Letter to the editor」や「Correspondence」という項目があり、論文に対する疑義が受け付けられており、著者には返答義務がある。ここでだんまりを決め込んだり、適切な回答ができないと議論に負けた又は不正を認めたと思われ、論文が撤回される事がある。一昨年ブレイクスルーとなったベータトロフィンの論文も否定論文が公表され責任著者がCorrespondenceで回答した。由井芳樹の疑義の指摘もその例。著者が回答せず不正と見なされた事は前述の通り。
昨年のクラウド査読の活躍により、来年度からインターネットでの研究不正告発も正式な告発に準じて扱われることになった。匿名の告発として最も有名なサイトはPubPeerで、科学者が匿名でたくさんの疑義を指摘している。PubPeerの匿名の研究不正の指摘でテニュア(参考[1])のポストを失った研究者もいて、PubPeerに対して提訴し争っている。東京薬科大学の論文盗用もネットでの匿名の指摘で調査が開始され、不正が認定された。元独協医大の服部良之も何の対応もせず、学術誌が論文を強制撤回した。日本では昨年のSTAP細胞捏造事件のクラウド査読が一番有名かもしれない。結果は上述の通り。
匿名、顕名、ネット、専門誌上を問わず、疑義が指摘されたのに、だんまりを決め込む等して有効な説明ができないと世間から不正を行ったと見なされ、論文が撤回されたり、解雇される事がある。何もなくやり過ごせると思ったら大間違いだ。論文撤回や解雇等の処分は事実上研究不正があったと認定されたという事だ。小保方晴子もES細胞の混入又はすり替えの実行犯と公式認定されていないが、世間では彼女が実行犯という見解が大勢だ。もし反論せず逃げ続けたら、小保方晴子が実行犯と目される事になるだろう。
もともと学術は発表、批判、反論の繰り返しで発展していくもので、対抗言論の法理を適用するのが適切だと思う。
参考
[1]テニュア:定年まで勤められるポストのこと。パーマネントとも言われる。tenure。