先日の小保方晴子氏の博士論文に対する早大調査委の結果を見て愕然とした。結果は序章の剽窃は認めたが学位授与に重大な影響を与えたとは言えず学位を取り消さないというものだった。
本論である第2章以降にもFig10がバイオ系会社の画像から剽窃・捏造した疑義があったが、下書きを誤って製本として大学に提出したという小保方氏の主張を受け入れ過失で処理した。その理由は公聴会時論文を修正して作られた完成版博士論文では重要なテラトーマ形成画像が3つ掲載されていることが推認されるのに、製本博士論文では2つしか載っておらず不自然だというもの。詳しくはこちらを参照。しかし小保方晴子氏は2014年5月27日に完成版博士論文を郵送で提出し、電子データを同年6月24日に提出。電子データ提出の1時間前にファイルを更新した履歴が残されていた。小保方氏の完成版博士論文が審査時に存在した客観的証拠は何もなく、事後的に捏造した可能性を否定できない。
博士論文とその審査はかなり重要なものだから、学位請求者や指導教官が何度も確認した後に提出するので下書きを誤って大学に提出することは通常ない。重要な画像が3つあると推認されるのに製本版には2つしかなく不自然だという事は下書きを誤って提出したと判断するには根拠が弱い。まして今年5月提出の完成版ではFig10が削除されレファレンスの剽窃疑義も修正されていたのだから都合がよすぎる不自然さも否定できない。電子ファイル提出の1時間前に更新履歴があったのだから完成版の捏造を疑って調査すべきだったのに行わなかったのだから、調査は不十分だったと言われても仕方ないだろう。いや、下書きを誤って提出したという信じられない弁明を上のような状況で認定していること自体が不可解で、黒を白と判断したのだと思う。
その根拠は他にもある。博士論文には序章の剽窃以外にも疑義がたくさんあったが調査委が不正と認定したのは主旨と関係ない序章の剽窃だけだ。例えば博士論文にはTissue Eng.誌と同じ画像加工・流用の疑義があり、その態様から不正は濃厚だと思うが調査委は無視した。調査委員会は本論部分の不正認定をわざと避けた印象がある。調査委は黒を白と判断した。本論部分の不正を認定してしまうと、主旨に影響するので学位取り消しの危険が増すので、それを避けたかったのだろう。大分大学では別画像のはずの2枚が同じだったというだけで博士号が取り消された。早大広報室は調査前から「仮に問題の画像が取り消されたとしても、博士論文の趣旨に影響しないと考えている」と説明し、最初から不正が認められても博士号を取り消すつもりがないという感じだった。
なぜ調査委がこのような不公正極まりない判断を行ったのか。動機は明確にはわからない。報告書では小林英明調査委員長以外4名の委員(早大の調査委員は2名)の名前が明かされていない。不公正な判断で非難されるのを避けたいと思っているのだろうか。早大は現在先進理工研究科の全博士論文を調査中で、現在剽窃博士論文23報が指摘されている。一般に学位の取り消しはめったになく、昨年の学位取り消しは早大創立以来初の事件だった。それなのに20件以上も博士号取り消しになったら前代未聞だ。早大調査委は何としてもそれを避けたいという思惑があったかもしれない。鎌田薫総長も他の博士論文も小保方博士論文との整合性をとると公言した。
動機は明確にはわからないものの、早大の組織防衛の思惑はあったと思う。小保方晴子氏は研究者生命を絶たれているといっても過言ではない者で、早大として不公正な判断をしてでも守りたい人物ではないだろう。にも関わらず、このような非常に不公正な判断をしたのだから、少なくとも被告発者を守ることが動機ではないと思う。他機関の例でも国立環境研究所、慶應大、東邦大、京都府立医大など被疑者が学長等でない人物でも黒を白と判断した例がある(ただし国立環境研究所の判断はごく一部で未調査の疑義がたくさんある)。高位者でなくても調査や判断が不公正になる問題点は前にも指摘した。
現在検討されている新ガイドライン案では半数以上を外部者で全委員が告発者、被告発者と利害関係のない者にすると規定されているが、早大の調査委員は半数以上外部者で建前上利害関係はない者を選んでいると思うが不公正極まりない判断になった。不正対応に不備があって指導を受けても改善がない時は経費削減等の制裁があるとされたが、琉球大学の森直樹氏の不正事件は発生から約4年経過したにも関わらず未だに学振等に報告されず、科研費罰則を不当に逃れ科研費を受け続けている。現行ガイドラインで期間超過により是正を求められるはずで、片瀬久美子氏が対応が遅いことを指摘したが現在まで何もしていない。日本分子生物学会は疑義の調査が終了するまで小保方氏らによるSTAP細胞検証実験を凍結するように公に要求したし、理研職員のアンケートでは4割を超える人が疑義の調査を優先し検証を凍結する旨の回答をしたが、理研上層部は無視している。日本学術会議が調査委員長を外部者にすべきという提言をしたが、理研上層部が積極的に交代させることはなかった。石井俊輔氏が委員長を辞任し外部の弁護士が調査委員長になったのは学術会議の提言を受け入れたからではなく石井氏に不正疑義が指摘されたので石井氏が自発的に辞任したからに過ぎなかった。
新ガイドライン案でも被告発者の現、旧所属機関による自浄作用を基本として研究不正の調査をする案になっているが、現行でも不当な期間超過の制裁があっても文科省や学振はそれを行っていないし、外部委員が過半数でも黒を白とする判断を平気で行っているし、しかもそれは小保方晴子事件という世界的にも注目され外圧がこの上ない状況だったにも関わらず不正な判断が行われた。日本学術会議や日本分子生物学会が公式に提言しても、内部全職員がアンケートの多数意見を提出しても理研上層部は無視した。一時期は改革委が残された疑義の調査をするように提言しても、論文撤回予定を理由に理研上層部は提言を無視し調査を拒んだ。理研は自浄作用がないと言われ、早稲田大学は死んだと言われた。昨年の分子生物学会のフォーラムでも自浄作用は理想論と言われた。研究機関の自浄作用が働かない様はこれまでの事件で何度も証明されている。
非常に残念なのは小保方晴子事件のように世界三大不正とされるほど重大な事件で、世間の外圧も大きいのに理研上層部や早稲田大学が不正の隠蔽や黒を白とする判断を行ったことだ。それをやれば世間から猛烈な非難をあびるとわかっているのに不公正な対応をした。CDB解体まで提言された異常事態。高橋政代理研プロジェクトリーダーが「理研の倫理観にもう耐えられない。」と悲鳴をツイート(リンク先続き)。
私は何年も前から研究不正問題の改善を訴え続けているが現状の日本の状態は余りに酷く公正さが完全に死んでいる状態といっても過言でない。欧州の学会では不正を戒めるときに「リケンするな」と言われ、日本は笑いものになっている。台湾の研究者が自作自演の論文審査で60編もの論文が撤回されたニュースが海外で報じられたとき論文撤回数の世界記録として藤井善隆氏の記録(捏造論文数173編以上)が紹介された。
第三者機関を作るだけでは対策として不十分だと前にも提言したが、研究不正で笑いものになり信用を地に落としている日本の学術界を改善するためには第三者機関を常設するだけでなく、もっと不正防止策が必要だ。