長崎大学グループの研究不正研究の不正に対して研究代表者のK氏が弁明と謝罪を行った。「引用ルールの解釈違い」という弁明[1]。
コピペなので直接引用に該当し、引用部分を鍵括弧や別段落で区別して、出典を明示する必要がある[2]。詳しい説明はリンク先を参照。長崎大学グループの報告書をみると、残念ながら引用部分が鍵括弧や段落で区別されておらず、どの部分が引用かわからない。例えば『「・・・」である[3]。』のように引用部分の近くに出典を表示しなければならないが、それもない。これは適切な引用方法ではない。
盗用の定義は他の研究者等のアイディア、分析・解析方法、データ、研究結果、論文又は用語を当該研究者の了解又は適切な表示なく流用すること。適切な表示がないので盗用に該当し得る。引用方法も適切な慣行に従ったものがよく、いろいろな大学で引用の仕方の教示が行われているので、それらに従った方法でないといけない。代表者のK氏は「引用ルールの解釈違い」という弁明かもしれない。たぶん報告書作製者のN氏らが引用のルールをよく理解していなかったのだろう。まだ公式な調査結果は出されていないが既に盗用という報道もある。
K氏は「悪意を持って成果を利用したわけではない」と弁明した[1]。私もそう思う。報告書には「検索入口 白楽ロックビル」とか冒頭に白楽氏のサイトのURLがあるので、引用の仕方の理解が十分でなかったという事だろう。しかし、この悪意はなかったという説明はSTAP細胞事件の時にも聞いた。「悪意のない誤りは不正行為でない」という主張で不正認定を逃れようとしたが、研究不正における故意性とは客観的・外形的研究不正行為に対する認識を指し、害意だけを指すのではないので、不正が認定された。この時は電気泳動画像の切り貼りの境界線明示のルールに違反したという事だったが、O氏が悪いと知らなかったとしても境界線不明示で切り貼りしている事を認識していれば故意の改ざんとなる。さらに見やすくするという目的性を持っていたから意図的な改ざんと判断された。これと同様に考えると、正しい出典や引用表示方法を知らなかったとしても、引用符等なく直接引用しているという客観的・外形的な盗用に対する認識があれば故意の盗用となる。オネストエラーではない。「悪いと知りませんでした!」という弁明で不正なしにすると、だいたいの研究不正はその弁明で不正なしになってしまう。
私は文系の研究倫理はかなり乏しいケースも少なくないと思う。査読付き論文で重複しなければ二重投稿でないとか査読付き論文でなければ捏造、改ざんは問題にならないとか、論文を撤回せず全ての分析結果を直したり、結論の一部さえ訂正する訂正公告もある。研究遂行方法に疑問があるケースも見かける事がある。困った事にきちんと根拠を示しても、悪い意味でプロ意識があるせいか自分の知識を常識だと思い込んで指摘を無視し間違った研究倫理を正しいと思い込む愚かな研究者もいる。
研究倫理の学習はどのような研究者にも必要である。今後は研究倫理の専門家が増えてほしい。
参考
[1]"医療分野における研究不正行為に関する意識調査及び心理的要因分析"のサイト、2019年10月4日閲覧
[2]"引用の仕方―不正と言われないために" 北海道大学のサイト 2019年10月4日閲覧